女性の病気について

耳鳴り

更年期障害で通院中のA子さん(49歳)は、最近"耳鳴り"に悩まされています。朝から晩までそれこそ四六時中、ときには強く、ときにはかすかに「キーン」とか「ジーン」とか聞こえてくるのです。両耳から聞こえてくることが多いですが、頭の中から聞こえてくるように感じることもあります。疲れたときやイライラしたときに強くなるようです。幸い難聴はありません。近所の耳鼻科医を受診しましたが異常なしと言われ、大学病院を紹介されました。やはりいろいろ検査しましたが原因となる病気はなく、担当医からは心配のない耳鳴りだと聞かされました。でもこんなにずっと耳鳴りがあるのに、本当に大丈夫なのでしょうか。今も不安な日々が続いています。

耳鳴りの分類・原因

耳鳴りは、「明らかな体外音源がないにもかかわらず感じる異常な音感覚」と定義され、拍動を伴う拍動性耳鳴と非拍動性耳鳴に大別されます。その多くは非拍動性耳鳴であり、3か月以上の長期間持続しており、頭痛や難聴、精神疾患を伴わず、検査でも異常が見られない場合は、無難聴性耳鳴と診断されます。
耳鳴りはありふれた疾患で、人口の10~15%にみられるといわれています。多くは難聴に伴い、聴覚障害として扱われる耳鳴りですが、難聴を伴わない無難聴性耳鳴の原因は、大きく分けると①軽微な感音難聴、②心因性、③軽微な内耳障害をきたす全身疾患、と考えられています。

耳鳴りの治療

慢性の耳鳴りに対する治療は、「耳鳴りそのものに対する治療」と「耳鳴りの苦痛に対する治療」の2つの考え方があります。ビタミン製剤や漢方薬などの治療薬も用いられますが、耳鳴りそのものを消失させることができると証明されている治療法はありません。そのため、耳鳴りがなぜ起こるのかなどを説明し、耳鳴りがあることによる不安を解きほぐし、困っていることを解決することも重要になります。また、そういった教育的カウンセリングと音響療法を組み合わせたtinnitus retraining therapy(TRT)も行われます。音響療法の方法は、難聴の程度により変わってきますが、難聴のない場合は、患者さん自身が長く聞いていても疲れない音で音環境を作っていただきます。

A子さんは悩んだ末に心療内科を受診しました。そこで、無難聴性耳鳴について説明を受け、他にも同様に悩んでいる人がたくさん居ることを知り、すこし安心しました。しばらく通院し経過観察する予定ですが、以前のような不安におそわれることはなくなりました。

文献

  • 一般社団法人 日本聴覚医学会編, 耳鳴診療ガイドライン2019年版
  • 小林有美子. 無難聴性耳鳴. JOHNS, 35(1); 63-66, 2019
  • 南修司郎. 耳鳴. medicina, 57(4); 408-410, 2020