女性の病気について

拒食症

現代のやせ志向を背景に、近年拒食症(神経性食欲不振症 anorexia nervosa; AN)は増加しています。戦後わが国の経済的繁栄の陰で市民生活のストレスが増し、ホッとできる家庭や温かく親身な学校が失われたことによる社会病ともいわれています。「自分の居場所」があるという実感が持てず、孤独感や疎外感に苛まれ、耐えがたい寂しさや生きていくことへの恐怖、自己肯定感や自尊心の欠如などの内面のストレスや葛藤をこころで表現し解決するかわりに、食べる・食べないことへのとらわれに転化しながら、心身の機能を障害していく疾患です。

女性のAN罹患率は0.5~3.7%とまれな疾患ではありません。好発年齢は12~25歳(発症の平均年齢は17.8歳)で、99%が女性です。ダンサーやスポーツ選手などの減量を要求される職種では一般人より発病率が高いといわれています。また、抑うつ、強迫性障害、パーソナリティ障害、双極性障害など他の精神疾患を合併しやすいと報告されています。ANの自然経過は、良好が44%、良好と不良の間が28%、不良が24%、5%が死亡との報告があり、予後不良因子として、初期の体重、嘔吐、以前の治療の失敗、発症前の家族関係の問題、結婚していることなどが挙げられています。

病因

ANの発症には①社会・文化的要因(やせ礼賛や肥満蔑視の風潮、豊富な食物)、②心理的要因(完全主義的・強迫的・依存的・衝動的性格、低い自己評価、自立の葛藤、体型と体重への過剰な関心と認知の歪み)、③生物学的要因(気分や摂食調節に関与する神経伝達物質の異常、飢餓に対する摂食調節機構の変動やエネルギー消費・代謝系の脆弱性)が複雑に関与していますが、ストレスを適切に処理する能力(コーピングスキル)が未熟なために発症する心身症の1つとして理解されています。ANは遺伝しませんが、姉妹や双生児の両者に発症することがあり、性格が似ていることや同一の家庭環境が背景にあるためと考えられています。最近、罹患感受性遺伝子研究も行われています。

症状

ANでは、無月経、低血圧、徐脈、低体温と冷え、うぶ毛の増加、便秘、むくみなどが生じます。嘔吐が長期間続くと、唾液腺のはれや手背の吐きダコが認められます。血液検査では、肝機能異常、白血球減少、コレステロール異常、電解質異常(低ナトリウム、低カリウム血症)が見られます。ホルモン検査では女性ホルモン、身長を伸ばすホルモンが低下します。これらの値は体重が回復すれば改善します。

治療

目標は身体的異常の是正と正常な食行動の維持を自ら図れるようになることですが、背後にある心理的諸問題の解決策を探ることは重要です。標準体重の70%以下で運動が辛くなり、60%以下では日常生活に支障が出ますから、まず栄養状態をある程度改善することが必要です。重篤な身体的異常のある場合、家族や社会との関係が維持できない場合、家族の治療の協力が得られない場合は入院しての治療となります。標準体重の70%以下の無月経に対しては、貧血や体力の消耗につながるため出血をおこすホルモン治療は行いません。個人差はあるものの、月経は標準体重の85%以上になると再開してきます。
長期にわたる経過の中で、治癒と再燃を繰り返します。摂食障害からの回復は、症状からの回復はもちろんのこと、自分らしさを尊重・肯定し、ありのままの自分を受け入れるようになることです。