女性の病気について

卵巣癌

本邦では卵巣癌に罹患する女性が毎年約8000人以上であり、その死亡は年間約4500人である。世界のレベルで見ると、卵巣癌は中産階級以上の婦人に発生することが多く、その患者数あたりの死亡率は婦人科癌のなかでもっとも高い。わが国の卵巣癌の死亡率は、昭和25年に人口10万対0.8であったが、昭和50年には2.7、平成17年には6.9と急増している。
この理由として次のことが考えられる。

  1. 卵巣癌の頻度が増えている(後述)。
  2. 卵巣には人体に発生するほぼ全ての種類の腫瘍が発生する。その腫瘍の性質も良性、境界悪性、悪性と多様である。悪性腫瘍では悪性度の低いものからきわめて高度のものまで様々である。
  3. 子宮頚癌、子宮体癌では癌検診により早期発見、早期治療が行われているが、卵巣癌では検診システムが確立されておらず、種々の方法が検討されている。
  4. 早期の卵巣癌は無症状のことが多い。
    進行癌でも特有の症状を欠くものがあり、診断時には手のほどこしようもないほど進行している場合がある。
  5. 卵巣癌のなかには癌の治療に抵抗して進行するものがある。

Ⅰ.頻度、病因

卵巣癌の粗罹患率は、昭和60年人口10万対6.8、平成12年12.4であり、平成27年には17.7と予測されている。卵巣癌の80%は上皮性であり、この75%が漿液性嚢胞腺癌である。
上皮性卵巣癌は50~75歳に多く、早発初経、未妊婦、高齢での出産、晩期閉経、肥満がリスク因子である。本人の病歴と家族歴に子宮内膜癌、乳癌、もしくは結腸癌があったり、母・姉妹に卵巣癌のあるときはリスクが高まる。
胚細胞腫瘍は10代、20代に好発し、妊娠中や分娩後に発見されることがある。

Ⅱ.症状

早期癌は通常無症状である。進行癌では次の症状が多いが特異的ではない。

  1. 下腹部腫瘤の触知や腫瘤感、または腹部膨隆や膨隆感。
  2. 膀胱、直腸、結腸等への圧迫症状。
  3. 月経異常、性器出血。

Ⅲ.診断

腹部の触診、内診、超音波検査による卵巣の腫大(腫瘤)や骨盤内の腫瘤の発見が診断の端緒となる。腫瘤が卵巣から発生しているか否か、卵巣とすれば非腫瘍性か腫瘍性か、腫瘍であればその種類は何か、そして良性か境界悪性か悪性かを診断する。
CT、MRI等の画像診断や腫瘍マーカーの検査が行われるが、診断の確定には開腹手術により腫瘍の本態(病理組織学的診断)を明らかにするとともに癌であればその進行期を決定する。これによって治療方針が検討される。卵巣癌の手術による進行期は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの各期に分類されている。

Ⅳ.治療

卵巣癌の診断・治療は開腹手術からはじまるので、手術前の「説明と同意」がきわめて重要である。
卵巣癌の治療は手術と化学療法が主であり、日本婦人科腫瘍学会編「卵巣がん治療ガイドライン(2004)」によるのが標準である。
卵巣癌の治療後の5年生存率は、癌腫の種類によってことなるが、おおよそⅠ期では70~100%、Ⅱ期では50~70%、Ⅲ期では15~35%、Ⅳ期では10~20%である。