卵巣癌
卵巣癌の罹患数は年々増加しており、年間罹患数(2018年)は13,049例で、死亡数(2019年)は4,733例です。発症は50~60歳代にピークを迎えます。未妊、未産、欧米化した生活習慣(肥満)、喫煙、子宮内膜症、遺伝性乳癌卵巣癌症候群・Lynch症候群などの遺伝的因子が発症のリスクとなります。一方、経口避妊薬の服用は卵巣癌発生リスクを有意に低下させます。
卵巣癌の症状と特徴
卵巣には多種多様な腫瘍が発生し、ヒトの体の中で最も大きな腫瘍が発生しやすいとされていますが、発生初期は症状に乏しいため、過半数は診断時にすでに進行がんとなっています。そのため、卵巣癌は「サイレントキラー(無言の殺人者)」と称されています。増大した腫瘍や貯留した腹水により、腹部膨満感、腹囲の増大、下腹部痛などを自覚します。
卵巣癌の検査
卵巣癌において確立された検診法はありません。超音波検査において腫瘍の存在を確認し、病変の広がりを調べるためにMRI、CT(PET-CT)検査を行います。また、診断の補助として腫瘍マーカー検査を行います。卵巣は骨盤内の深いところに位置しているため、手術前に病変の一部を摘出し診断することは困難であり、まず手術を行い摘出された卵巣を検査することで診断が確定します。
卵巣癌の治療
治療の基本は手術療法と化学療法(抗がん剤)です。近年では、薬物療法として化学療法に加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の投与も行われています。初回治療として手術療法が選択され、診断の確定、病期(Ⅰ~Ⅳ期)の決定を行います。手術は腫瘍の広がりに応じて術式が選択されますが、原発巣の摘出が困難な場合には化学療法を先行することがあります。
妊孕性温存(卵巣や子宮の温存)は、病巣の完全摘出や進行期の決定が損なわれることがなく実行できる場合に限られます。I期の早期がん、低悪性度である場合には妊孕性温存治療が考慮されます。
卵巣癌の予後
手術進行期や手術完遂度、年齢、がんの悪性度などは予後に影響をおよぼします。腫瘍の減量手術では、腫瘍の残存が多いと予後不良であることが分かっており、できるだけ腫瘍を取り除くことが重要です。進行期別5年生存率はI期89.0%、Ⅱ期78.9%、Ⅲ期47.6%、Ⅳ期26.4%となっています(日本産科婦人科学会2021)。
外科的閉経の問題点
外科的閉経とは、がん治療の一環として卵巣を摘出することにより急激に卵巣機能が廃絶した状態を意味します。自然閉経と比較して外科的閉経では更年期症状(ホットフラッシュ、肩こりなど)が出現しやすく、症状も強いといわれています。さらに、脂質異常症や心血管系疾患の増加、認知機能の低下、骨への負の影響などが報告されており、それらの予防のためにホルモン補充療法が考慮されます。卵巣欠落症状に加え、がんの診断により様々な精神的不安を生じるため、身体的ケアだけではなく精神的なサポートも重要です。
- (1)国立がん研究センター がん情報サービス がん統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/19_ovary.html - (2)卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版 日本婦人科腫瘍学会 金原出版株式会社、2020
- (3)婦人科癌のサバイバーのヘルスケアガイドブック 日本婦人科腫瘍学会・日本産婦人科乳腺医学界・日本女性医学学会 診断と治療社:26-28、2020