性同一性障害
女性なのに、自分は「男として生きるのがふさわしい」、男性なのに「本当は女として生きるべきだ」、と確信する現象を「性同一性障害(gender identity disorder, GID)」と呼びます。このような性別の不一致感から悩んだり、落ち込んだり、気持ちが不安定になることもあります。自分の産まれ持った身体の性(生物学的性別)と、心の性(自分自身が自分の性をどう感じているか)が一致しない状態のことをいいます。
性同一性障害でみられる3つの特徴
- ①自らの性別を嫌悪あるいは忌避する:男らしい、あるいは女らしい体つきになることをいやがる気持ちが強くなります。
- ②反対の性別に対する強い持続的な同一感を抱く:反対の性別の服装(異性装)や、反対の性別としての遊びを好みます。
- ③反対の性別としての性別役割を果たそうとする:日常生活の中でも反対の性別として行動したり、義務を果たしたり、家庭や職場、社会的人間関係でも、反対の性別として役割を果たそうとします。
性同一性障害の診断は次の4つのステップで行います。
- 1. 生物学的性(SEX)を決定する:染色体検査、ホルモン検査、内性器、外性器の検査を行って、正常な男女のいずれかの性別であることを証明します。
- 2. ジェンダー・アイデンティティの決定をする:生育歴、生活史、服装、これまでの言動、人間関係、職業などに基づいて性別役割の状況を調べ、ジェンダーの決定をします。
- 3. 生物学的性別とジェンダー・アイデンティティが不一致であることを明らかにします。
- 4. 性分化疾患などの異常はない・精神的障害はない・社会的理由による性別変更の希望ではない、ことを確認します。
性同一性障害の治療は、①精神療法、②ホルモン療法、③外科的治療の3段階を順に進めます。
外科手術に進んだ場合でも精神療法やホルモン療法は継続します。
- ①精神療法:これまでの生活の中で、性同一性障害のために受けてきた精神的、社会的、身体的苦痛について十分な時間をかけて聞き、いずれの性別で生活するのが本人にとってふさわしいかの決定し,これからの生活を支援します。
- ②ホルモン療法:十分な精神療法を行っても自分の性別とジェンダーの不一致に悩み、身体的特徴を少しでもジェンダーに合わせようと希望するとき、ホルモン療法を行います。ホルモン療法を受けるには種々の条件があります。
- ③外科的治療:外性器等に外科的に手を加え、主として反対の性別に近づける治療法を「性別適合手術」と呼びます。外科的療法を受けるには、種々の条件を満たす必要があります。
性同一性障害をもつ方のクオリティオブライフ
性同一性障害を有する人を取り巻く医療的環境や社会的・心理的状況は、必ずしも整っているわけではありません。医療を受けられる施設が限定される上に保険が適用されず、法律の整備がまだまだです。また、原則として、障害年金の認定の対象とされていません。しかしながら、性同一性障害と併せてうつ病等の認定対象となる病気があるような場合は、認定されます。
参考文献
- 中塚幹也:性分化 性同一性障害. 日産婦誌 71:2440-2443,2019
- 舛森直哉:VII 性分化,発育 その他 性同一性障害. 別冊日本臨床 領域別症候群シリーズNo.3 内分泌症候群(第3版)III,東京:日本臨床社;441-445,2019