女性の性機能障害(Female sexual dysfunction ; FSD)
性機能障害とは、性的な愁訴や障害を含む疾患です。その原因は様々ですが、発症することにより、パートナーとの人間関係や生活の質が低下することにつながります。この性機能障害は、どの年代の女性にも起こりやすく、その頻度は少なくありません。しかし、人の意識のなかでは、まだ秘め事という認識が根強いため、正確な発症率は公表されていません。
女性の性機能障害の原因として、多くは身体的、精神的要因があります。身体的な要因では、事故や外傷による脊髄損傷や糖尿病といった末梢神経系の疾患が、内分泌性なものでは、閉経による性ホルモンの分泌低下があります。閉経によるエストロゲンレベルの低下は、性的興奮時の潤滑液分泌の低下をまねき、性交痛の原因となります。最近、女性の発症が多くみられているうつ病では、治療薬として処方されているセロトニン再取込阻害薬は、性的興味の減退を引き起こすことで知られています。精神的な要因では、パートナーとの関係の問題や自身のボディイメージが乏しい場合が影響するといわれています。また、過去の体験した性虐待や性暴力による性的恐怖心が影響することも知られています。
女性の性機能障害には、性行為への関心が減ったことで性的興奮が得られないもの、オルガズムが障害されるもの、性交時の痛みや挿入が困難になるものがあります。ここに、詳しく説明していきます。
➀ 性行為への関心が減ったことで性的興奮が得られない
育児疲れや仕事が激務であったりした場合に、日常生活のなかで生じている精神的、感情的なストレス要因により起こることもありますが、性ホルモンの分泌低下や薬物治療を受けていることで生じることもあります。
➁ オルガズム障害
オルガズムは十分な性的刺激や性的興奮を経験しているにも関わらず、オルガズムの欠如や感覚の低下がみられる症状のことです。オルガズムは、性的興奮がピークに達した後におこる、骨盤底筋群のリズミカルな運動が基本で、これを心地よく感じるのが健康な性反応ですが、原発性である場合には性的虐待の既往があること、続発性の場合には外科的手術や外傷による骨盤底の支配神経や筋肉の損傷、葛藤や気になることがあると起こります。
➂ 性交時の痛みや挿入が困難になるもの
性交に伴う性器の痛みや膣痙攣により、挿入が困難になる場合があります。閉経に伴う低エストロゲン状態が大きな原因です。また、外陰炎、腟炎、腟粘膜の萎縮、子宮内膜症など身体疾患が原因でおこるものが少なくありません。
女性の性機能障害の治療には、女性ホルモン補充療法が多く行われています。しかし、セックスレスなどの、パートナーとの人間関係によるものが原因である場合には、面接療法やパートナーをまじえた心理療法を中心とした性治療も試みられています。年齢とともに、性的問題を有する女性は多くなります。なかでも性機能障害については、人に相談できずに自分で抱え込み大きなストレスとなってしまいがちです。最近では、性機能外来を開設している泌尿器科や婦人科もあります。