卵巣の疾患(良性腫瘍)
1. 卵巣腫瘍とは
卵巣は親指の先ぐらいの大きさで、子宮の左右に各1個ずつあります。この卵巣に腫瘍ができたものを卵巣腫瘍といい、多くは片側の卵巣に発生しますが両側に発生することもあります。卵巣腫瘍には非常に多くの種類があり、大きく分けると良性腫瘍、悪性腫瘍、境界悪性腫瘍に分類されますが、約90%が良性で、命には影響のないものですが、腹痛などの原因になります。
2. 分類
卵巣良性腫瘍は病理学的に細かく分類されていますが、この中でよく見られるのは以下の4つです。
(1)漿液性嚢胞腺腫
腫瘍の中に淡黄色透明の粘稠度の低い液体がたまり、水風船のように単房性で薄く平滑な壁に包まれています。一時的に液体がたまる非腫瘍性の病変と鑑別が難しいこともありますが、自然に縮小することはありません。
(2)粘液性嚢胞腺腫
腫瘍の中に粘稠度の高いネバネバとした液体がたまります。多房性であることが多く、内部が平滑な壁で仕切られています。
(3)成熟奇形腫
卵巣腫瘍全体の約20%を占め、比較的若年女性に多く、内部に皮膚組織、毛髮、脂肪、軟骨、骨などの成分を含みます。皮様嚢腫とも呼ばれます。若年者で癌化することはまずありませんが、高齢者に発生すると稀に癌化することがあります。
(4)子宮内膜症性嚢胞
本来は子宮の内部にある子宮内膜が卵巣で増殖してできる卵巣嚢腫で、嚢腫内部にはチョコレート色の古い血液が溜まることから、チョコレート嚢胞とも呼ばれます。40~50歳代にみられる卵巣嚢腫の中で最も多く、まれに癌化することがあります。
3. 症状
一定の大きさまでは無症状のことが多く、しばしば検診または妊娠時に偶然発見されます。腫瘍が増大すると腹部膨満感、圧迫感が出現しますが、それでも太っただけだと思い込まれる方も多いようです。また腫瘍の根元がねじれると(茎捻転)、突然激しい下腹部痛が出現します。破裂を起こして、やはり激しい腹痛を起こすこともあります。
4. 診断
診断にはまず内診、超音波検査(経腟または経腹)、血液検査(腫瘍マーカー)を行ないます。さらにMRIやCTを併用して腫瘍内部の性状や周囲との関係などを観察し、良性か悪性かの診断を行ないます。最終的には摘出したものを顕微鏡で見ることにより診断が決定します。
5. 治療
卵巣腫瘍の良性・悪性の区別は必ずしも容易ではなく、また、基本的に自然消失は期待できないこともあり、手術療法が基本です。ただし、大きさが6cm以下で悪性を疑う所見を認めない場合は3~6ヵ月毎に経過観察を行なうことも可能です。
主な手術方法としては、
(1)卵巣嚢腫摘出術:卵巣腫瘍の腫瘍部分だけを取り除き、正常部分を残す
(2)付属器摘出術 :卵巣腫瘍を卵巣・卵管とともに摘出する
の2つがあります。また、いずれも開腹手術と腹腔鏡下手術があります。どの術式を選択するかは、患者さんの年齢、腫瘍の大きさ・性質、周囲との癒着などから総合的に決定します。
文献
- 1. 日本産科婦人科学会・日本病理学会編. 卵巣腫瘍・卵管がん・腹膜癌取扱い規約. 東京: 金原出版; 15-65, 2016
- 2. 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編. 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020. 東京: 日本産科婦人科学会事務局; 72-75, 2020