女性の病気について

慢性骨盤痛・外陰痛

慢性骨盤痛

「慢性骨盤痛」とは、「6か月以上持続する骨盤内に限局した痛みで、身体機能に障害を引き起こすほどに激しく、何らかの治療を必要とするもの」と定義されており、全女性の2~24%に見られるとされています1)。慢性的な骨盤内の痛みの原因となる疾患は、子宮内膜症や子宮腺筋症、あるいはクラミジア感染症などの骨盤内炎症性疾患のように、数多く存在します。長期間にわたって骨盤内に痛みを自覚している女性が外来を受診された場合には、病歴を詳しくお聴きし、痛みの部位・強さ・性質について十分に身体所見を確認し、超音波・CT・MRIなどの画像検査や血液検査を行って、目に見える疾患(器質的疾患)や、痛みの発生するメカニズムが明らかな疾患(機能的疾患)の有無を探索します。月経や排卵には関係なく強い痛みを常に自覚しており、種々の検査を行っても器質的疾患や機能的疾患による痛みとは考えにくい場合に、「慢性骨盤痛」と診断して対処することになります。

外陰痛

「外陰痛」とは、「3か月以上続く、灼熱感と表現されることが多い慢性的な外陰部の不快感であり、視診で明らかな所見や特異的な神経学的異常がないもの」と定義されており、全女性の3~14%に見られるとされています1)

慢性的な外陰部の痛み・不快感の原因となる疾患は、性器ヘルペスなどの感染性疾患、接触性皮膚炎などの炎症性疾患、パジェット病などの腫瘍性疾患、脊髄神経圧迫などの神経性疾患のように、数多く存在します。長期間にわたって外陰部に痛みを自覚している女性が外来を受診された場合には、病歴を詳しくお聴きし、痛みの部位・強さ・性質について十分に身体所見を確認し、必要であれば画像検査や血液検査を行って、目に見える疾患(器質的疾患)や、痛みの発生するメカニズムが明らかな疾患(機能的疾患)の有無を探索します。種々の検査を行っても器質的疾患や機能的疾患による痛みとは考えにくい場合に、「外陰痛」と診断して対処することになります。

慢性骨盤痛・外陰痛への対処

慢性的な骨盤内や外陰部の痛みの発症と進展には、そもそも強い痛みを自覚しているという身体的背景、痛みによって不安や抑うつを感じているという心理的背景や、痛みによって家族・友人・学校・職場などの人間関係に影響があるという社会的背景が複雑に関連しています2)。痛みが心理社会的背景に影響を与えるばかりでなく、心理社会的な背景が痛みの自覚をさらに強めている可能性もあります。そのために、慢性骨盤痛・外陰痛でお困りの方に対しては、身体的な診察・検査を行うだけではなく、これまでの成育歴や現在の人間関係について詳しくお聴きしたり、心理学的検査を行ったりすることが必要になる場合があります。

また治療においても、一般的な痛みに対して処方される消炎鎮痛薬で改善が見られない場合には、抗うつ薬や抗不安薬など向精神薬を用いた薬物治療を行ったり、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法を行ったりする場合もあります。

  • 1. 日本女性心身医学会, 森村美奈, 針田伸子: 慢性骨盤痛と外陰痛. 最新女性心身医学. pp178-187, ぱーそん書房, 東京, 2015.
  • 2. 森村美奈, 野口愛: 慢性骨盤痛. 心身医学 57(8): 856-861, 2017.