女性の病気について

脂質異常症

女性では、心筋梗塞などアテローム性動脈硬化を基盤とする心血管疾患が閉経後に急激に増加することが知られています。アテローム性動脈硬化の主な原因の一つが、高LDLコレステロール血症を中心とする脂質異常症です。

脂質(脂肪)は糖(炭水化物)・蛋白質と並ぶ三大栄養素の一つですが、主としてエネルギーの貯蔵に用いられます。食品中に含まれる脂質の大部分は中性脂肪(トリグリセリド, TG)であり、酵素で分解されて吸収された後、再びTGに変換されて脂肪組織に蓄えられます。糖や蛋白質も、その大部分は肝臓でTGに変換されて脂肪組織に蓄えられます。TG以外にも様々な脂質がありますが、中でもコレステロールが特によく知られています。

TGやコレステロールなどの脂質は、血液中では水に溶けやすいリポ蛋白質と呼ばれる粒子に包まれるようにして存在しています。リポ蛋白質は、その比重によって、低密度リポ蛋白質(LDL)や高密度リポ蛋白質(HDL)に分類されます。LDLはコレステロールを多く含み、肝臓から血管や末梢組織にコレステロールを届ける役割を、HDLは逆に血管や末梢組織からコレステロールを肝臓に回収する役割を果たしています。LDL粒子の数が多いことは、血管にコレステロールが蓄積され、アテローム性動脈硬化が進行しやすい状態にあることを意味しています。

脂質を多く含むエネルギー量の高い食品を摂取しながら活動量が低く抑えられていると、体内のTGやコレステロールの総量が増加します。血液中のTG濃度が増加する高TG血症になりますし、また血液中のLDL粒子数が増え、LDLに含まれるコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が増加して高LDLコレステロール血症の状態になります。血液検査によって、これらの状態を把握することが可能です。

女性ホルモンのエストロゲンには、肝臓でLDL粒子の合成を抑え、取り込みを促す働きがあります。閉経によって卵巣からのエストロゲン分泌が低下すると、これらの働きが失われて血液中のLDL粒子が増加し、血液中のLDLコレステロール濃度が上昇します。アテローム動脈性硬化に起因する心筋梗塞などの病気が閉経後女性において急速に増加するのは主にこのためだと考えられています。

逆に、閉経後女性に対してエストロゲンを補うホルモン補充療法を行うと、LDL粒子数が減少し、血液中のLDLコレステロール濃度が減少することが知られています。これまでに、閉経後女性がエストロゲンを服用することにより血液中のLDLコレステロール濃度が10~20%低下することが示されていますが1)、さらに最近の研究では、閉経後6年未満の女性がエストロゲンを服用することにより、頸動脈の動脈硬化の進展が抑制されることが示されています2)

  • 1. Godsland IF: Effects of postmenopausal hormone replacement therapy on lipid, lipoprotein, and apolipoprotein (a) concentrations: analysis of studies published from 1974-2000. Fertility and Sterility 75: 898-915, 2001.
  • 2. Hodis HN, Mack WJ, Henderson VW, et al: Vascular Effects of Early versus Late Postmenopausal Treatment with Estradiol. N Engl J Med 374: 1221-1231, 2016.