女性の病気について

甲状腺疾患

甲状腺は、気管の前面(のどぼとけの下部)に位置し、蝶の形をした臓器です。甲状腺ホルモンには、テトラヨードサイロニン(T4)、トリヨードサイロニン(T3)などがあり、生体内の新陳代謝を促す働きがあります。甲状腺ホルモンの分泌合成は、下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されています1)。主な甲状腺疾患を以下に示します。

1.バセドウ病

バセドウ病は、複数の遺伝的要因と環境的要因が関与して、自分のTSH受容体に対する免疫防御機構が破綻し、甲状腺機能亢進症や眼症などの甲状腺外症状が引き起こされる疾患です1)。その環境的要因の一つとしてストレスが挙げられており、バセドウ病は心身症の代表的な疾患の一つと言えます2)

15~50歳女性に発症することが多く、有病率は女性の約0.3%、男女比は 1:7~10 と言われています。

動悸、多汗、体重減少、疲労感、手指振戦などの自覚症状の他、びまん性甲状腺腫、頻脈などの他覚症状を呈します。甲状腺以外の症状として、眼症状(眼球突出、複視、眼球偏位)や前脛骨部粘液水腫も見られます。

バセドウ病は、臨床症状のほか、血液検査等から診断されます。バセドウ病の治療には、抗甲状腺薬による薬物治療、放射性ヨード(131I)によるアイソトープ治療、甲状腺亜全摘による外科療法の3つがありますが、わが国では薬物治療が圧倒的に好まれています。抗甲状腺薬には、チアマゾールとプロピルチオウラシルがありますが、通常チアマゾールの投与が推奨されています。ただし、妊娠前期の患者への抗甲状腺薬投与に関しては、チアマゾールによる胎児への影響が懸念され、プロピルチオウラシル投与が推奨されています3)

2.甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンの作用が低下した病態を甲状腺機能低下症といいます。日本における有病者は、約300万~600万人と推定されます。男女比は 1:5~10 程度で、女性に多いです。発症年齢は成人に多く、原因は橋本病が最多です1)

自覚症状には、全身倦怠感、寒がり、発汗減少、便秘などがあり、他覚症状には、非圧痕浮腫、徐脈、皮膚乾燥、甲状腺腫などがあります。主に血液検査等から診断されます。治療としては、甲状腺ホルモンによる補充療法が基本です。

妊娠中は、妊娠5週から15週にかけて甲状腺ホルモンの需要が1.4倍に増大することにより、妊娠成立後は甲状腺ホルモンの増量が必要となることが多いです3)

  • 1) 佐藤哲郎、山田正信、赤水尚史ら:甲状腺.矢﨑義雄(総編集).内科学(第11版)[机上版].東京.朝倉書店;1565-1590,2019
  • 2) 吉内一浩:心身症.矢﨑義雄(総編集).内科学(第11版)[机上版].東京.朝倉書店;58-60,2019
  • 3) 荒田尚子:妊娠中の内分泌疾患の管理.日本内科学雑誌.106巻.2432-2438、2017