女性の病気について

乳幼児虐待

全ての子どもは「児童の権利に関する条約」の精神にのっとり、適切な養育を受け、健やかな成長・発達や自立が図られるなどを保障される権利があります(厚生労働省HPより)。乳幼児虐待は、乳幼児にかかわる周囲の者(保護者、施設職員、保育園・幼稚園・学校の教員など)が、乳幼児に対し虐待を加えたり、育児放棄(ネグレクト)をしたりすることをいい、子どもが健全に育つ権利が脅かされます。

乳幼児虐待は、①身体的虐待②性的虐待③ネグレクト(養育の放棄・怠慢)④心理的虐待の大きく4つに分類されます。

  • ①身体的虐待:乳幼児の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること(児童虐待の防止等に関する法律:第2条第1項)
  • ②性的虐待:乳幼児にわいせつな行為をすること又は乳幼児に対してわいせつな行為をさせること(児童虐待の防止等に関する法律:第2条第2項)
  • ③ネグレクト:乳幼児の心身に正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること(児童虐待の防止等に関する法律:第2条第3項)
  • ④心理的虐待:乳幼児に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、乳幼児が同居する家庭における配偶者の対する暴力(配偶者<婚姻の届け出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む>の身体に対する不当な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう)その他の乳幼児に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(児童虐待の防止等に関する法律:第2条第4項)

全国の児童相談所における児童虐待に関する相談件数は年々急増していますが、特に心理的虐待が半数以上を占めます。心理的虐待は具体的には、子どもの前で配偶者を暴行したり罵倒したりする(前面DV<DV;ドメスティック・バイオレンス>)、「生まれてこなければよかったのに」といった子どもの心を傷つける言葉を繰り返し浴びせる、他のきょうだいと比べて著しく差別的な扱いをする、無視や拒絶的な態度をとる、暴力的な言動により子どもを脅し恐怖に陥れるなどがあります。特に養育者と愛着形成が出来る臨界期(発達過程において、その時期を過ぎるとある行動の学習が成立しなくなる限界の時期)である1歳半まで、長くても5歳ころまでに虐待を受けた子どもはその後の人生において、生きづらさを感じやすく、本来もっている能力を発揮しにくいといった社会適応が困難となりやすいとされます1)。また将来、重篤な精神疾患を発症しやすい傾向があります。

虐待死事例では、0歳時が約半数、3歳時以下とすると8割強を占めます。主たる加害者は、実母が最も多いとされます。出産当日の虐待死は、「望まない妊娠」が背景にあると考えられ、性教育の充実が求められます。また、貧困、多胎児や障害のある児の出産、ひとり親など育児負担から虐待してしまうケースもみられます。ただ最近は、子育て家庭も減り、兄弟姉妹も近所とのかかわりも少ないため、子育てを身近に経験していないまま、大半の人が親になります。身近に相談出来る者がいない場合、些細なこと---例えば泣きわめく子どもに対し「どうしていいか分からない」---といったことが積み重なって、養育不全を起こし、結果として虐待に至ってしまう可能性は誰にでもあります。

育児中の女性が、PMS(月経前症候群)を訴えたとき、背景に乳幼児虐待を認めることがあります2)。普段は耐えることが出来る育児も月経前は我慢出来なくなり、いらいらが爆発して子どもにあたってしまいます。月経が始まると、我に返り「自分はなんとひどい親だろう」と落ち込んだりします。また、母親自身がDVの被害者である場合は乳幼児虐待につながるケースが少なくありません3)

京都大学大学院教育学研究科の明和政子教授によると、ほ乳類の中で人間だけが、「みんなで協力して子育てする(共同養育)」という独自の子育てスタイルを確立してきたといいます。核家族化が進む現代の子育ては、本能とは真逆の状況にあります。少子化が問題となるなか、せめて生まれてきた児を健全に育てることが出来なければ未来は決して明るいものになりません。妊娠・避妊・育児など含めた教育が重要です。そして安心して女性が子供を産み、育てることが出来る環境を整えることが大事です。乳幼児虐待の防止は社会全体で取り組む重要な課題です。

  • 1) 岡田尊司.愛着障害 子ども時代を引きずる人々.東京:光文社新書; 55-56、2011
  • 2) 武者 稚枝子,太田博明:産後のPMS.女性心身医学.13巻:55、2008
  • 3) 中澤直子:周産期におけるドメスティック・バイオレンス.日本女性心身医学会編.女性心身医学.大阪:永井書店;333-343、2006