女性の病気について

妊娠・出産・子育て中のうつ病

妊娠・出産・子育ては女性にとって大きなライフイベントの一つですが、妊娠期や出産後はうつ病にかかりやすい時期でもあります。

妊娠期のうつ病

妊娠期のうつ病にある時点で病気にかかっている人の割合(有病率)は6.5~12.9%1)といわれていますので、8~12人に1人が経験していることになります。妊娠初期に多くみられ、社会的サポートが不十分、予期せぬ妊娠、パートナーとの関係性などの心理社会的要因が関わっていると考えられています。妊娠期のうつ病は、「産後うつ病」の危険因子と考えられているため、注意が必要です。不安や心当たりがある場合にはなるべく早く産婦人科や精神科で相談しましょう。

出産後の変化

出産後は、ホルモンバランスの急激な変化に加え、母親の役割を果たしていくことに伴う環境の変化や育児による不安や疲労などが相互に作用し、精神的に不安定になりやすい状態です。産後早期には、涙もろさ、抑うつといった一過性の精神的な変化であるマタニティブルーズが起こることがあります。産後10日以内に発症し、多くは産後3~5日頃から症状が出現し、2週間以内に軽快する生理的なものです。褥婦の約3割がマタニティブルーズを経験しますが、その後産後うつ病に移行する可能性もあるため、注意が必要です。

産後うつ病

産後うつ病は、産後数週から1年以内に発症し、気分の落ち込み、憂うつな気持ち、日々の生活で興味が減退したり、楽しめない感じを主症状に発症したうつ病のことです。妊娠中に発症したうつ病が産後も継続している場合や、産後1年以上経過してから発症したうつ病は含まれません。産褥精神障害の中で最も多い病型であり、日本では褥婦の5~10%2)に認められるといわれています。

原因

うつ病の発症には多くの要因が相互に影響し合っています。発症要因には、直前のストレス要因としてのライフイベント、周囲からの援助であるソーシャルサポート、本人の対応行動であるコーピング、感じ方の特徴である認知パターン、こうした状況の遠因となった児童期における育てられ方、虐待体験などのさまざまな要因が関与している3)といわれています。

検査

産後2週間、4週間の2時点でエジンバラ産後うつ病自己評価表(EPDS)によりスクリーニングを行うことが推奨されています。EPDSは10の質問項目に対して4つの回答から選択する自己記入式質問紙で、回答時間は5分程度です。合計点は0から30点であり、日本では9点以上を産後うつ傾向があると判断としています。その場合、精神科専門医によりうつ病を含めた気分障害の客観的な確定診断を、うつ病診断基準に沿って行います。

治療・ケア

心理療法やカウンセリング、薬物療法が行われます。使用する薬剤によって、抗うつ薬の母乳中への移行を考慮し、授乳の可否が検討されます。褥婦への十分な説明と不安の軽減をはかるとともに、夫、家族の理解も重要であるため、サポート体制を整える必要があります。産後うつ病は適切な治療が行われれば、一般に予後は良好であるといわれています。母子は出産後、地域で生活しているため、医療機関のみならず、行政と連携した母子保健サービスの提供が重要であるといわれています。

引用文献

  • 1)Gavin, N.I. et al. Obstet Gynecol. 106, 1071-1083, 2005
  • 2)Kitamura T, et al. Multicentre prospective study of perinatal depression in Japan-incidence and correlates of antenatal and postnatal depression. Arch Womens Ment Health, 9:121-130,2006.
  • 3)北村俊則編. 事例で読み解く周産期メンタルヘルスケアの理論. 医学書院,205-220,2007.
  • 4)Cox、D.L et al. Detection of postnatal Depression.; Development of the 10-item Edinburgh Postnatal Depression Scale, The British Journal of Psychiatry,150(6):782-786,1987.