女性の病気について

神経性やせ症

神経性やせ症(Anorexia Nervosa:以下AN)は、やせ願望により食事の制限や過剰な運動を行い、やせているにもかかわらず体重が増えることを拒否する病気で、摂食障害の中の一つの病型です。摂食障害患者は世界で約7000万人いると推測されています。摂食障害が増加している背景には、やせが賞賛される傾向など女性を取り巻く社会文化的背景の変化があるといわれています。2017年の全国調査でBMI(body mass index)が18.5未満の割合は20代女性で21.7%と最も多く、若い女性のやせは社会的問題となっています。1)

疫学

近年の全国調査ではANの受診患者数は全国に約13000人とされますが、未受診患者も含めると実際にはもっと多いと考えられます。2)10~20代が好発年齢で、約90%が女性です。徐々に30代以上の患者も増えてきており、高齢化、慢性化の傾向にあります。うつ病、不安症など他の精神疾患を合併しやすく、重篤なやせによる身体合併症や自殺で不幸な転機になる方も少なくありません。

病因

ANは様々な要因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患であり、単一の要因によるものではありません。AN患者の多くはもともと完璧主義な傾向があったり自己評価が低く、なんらかの挫折体験を機に、ダイエットにのめりこむことで辛い現実から離れて、体重を自分の力でコントロールできているという達成感に「逃げ込む」形で発症します。やせが進むと飢餓状態による神経・内分泌的な機能異常もあいまってますます頑なになっていくという悪循環を呈します。近年では遺伝子研究も行われています。

症状

やせが進むと、体がエネルギー消費を最小限にするために、無月経、低血圧、徐脈、低体温などが生じます。飢餓の反動で過食が生じることもあり、過食後に自己嘔吐や下剤の過剰使用などの排出行動を伴うと慢性化しやすくなります。血液検査では肝機能障害、貧血、白血球減少、低血糖、電解質異常(低ナトリウム、低カリウム血症)、甲状腺ホルモン、女性ホルモンなどの低下が見られます。気持ちの落ち込み、不安、こだわりが強くなるなどの精神面の問題も生じます。これらの様々な問題の多くは体重が回復すれば改善していきますが、慢性化すると不妊や骨密度の低下などが問題となります。

治療

受診を拒否することが多いので、まず医療機関につながることが大切です。外来では、「体が冷える」など本人の困っている症状を見つけ出し治療の動機付けを行い、疾患理解を促し、少しずつ摂取カロリーを増やす方法を考えていきます。その際、食事を食べられないのは本人のわがままではなく病気の症状であることを家族にも本人にも理解してもらうこと(外在化)が大切です。背景にある心理的な問題についても取り上げ、心身両面からのアプローチを続けていきます。摂食障害からの回復は、症状からの回復はもちろんのこと、自分らしさを肯定しありのままの自分を受け入れるようになることです。やせによる身体合併症が重篤な場合は入院治療となります。無月経に対しては、長期経過例で骨密度の問題も大きい場合婦人科治療の検討がなされますが、原則的には体重が回復すれば月経再開するため標準体重の90%までの体重回復を目指します。3)

文献

  • 1) 山内常生、切池信夫:「摂食障害」の誕生から現在までの変遷 時代と社会の変化が及ぼしてきた臨床像.公衆衛生.Vol.83 No.10:718-723,2019
  • 2) 安藤哲也:摂食障害の診療体制整備に関する研究.平成28年度研究報告書.2014
  • 3) 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2017 p151-155.日本産科婦人科学会,2017