過換気症候群
過換気症候群とは、特に原因となる身体の病気(器質的な異常)がなく、主として心理的な要因により、突然、頻呼吸、過呼吸が出現し、それに引き続いて、呼吸困難、意識障害、テタニー症状(血液中のカルシウム濃度の低下に伴って、末梢神経の興奮性が高まり、筋肉の持続的な硬直をきたすもの)などの様々な症状を呈する症候群のことを言います。心身症的な色彩が強く、比較的若い女性に多いといわれています1)。
過換気症候群では、まず、強い不安を訴え、突然、呼吸困難感が出現して頻呼吸となります。過換気が重度となると、血液中の二酸化炭素濃度が低下して、その結果、血液中のカルシウム濃度の低下が引き起こされ、テタニー症状が出現します。また、それらに併せて意識障害、失神、痙攣などがみられることもあります。
一方、パニック症は、強い不安感を主症状とする精神疾患の1つですが、その病態には呼吸異常が深く関連しています。過換気症候群とパニック発作には、呼吸困難感、動悸、振戦、知覚異常など共通する症状が多く、実際、過換気症候群とパニック症との合併(35~50%程度の一致率)も論じられています2)。
発作時の治療法として、従来行われてきたペーパーバッグ法の有効性については議論が多く、窒息のリスクもあることから禁忌(やってはいけないもの)とする考え方もあるので、実施には注意が必要です2)。不安・恐怖を取り除くように声かけをし、リラックスできるように努めることが最も重要です。それ以外の治療法としては、呼吸指導(横隔膜を使った腹式呼吸で、ゆっくりと息を長く吐く呼吸の指導)や、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬(ロラゼパム、アルプラゾラム、ロフラゼプ酸エチルなど)を用いた薬物療法(頓用、定時ともに)がありますが、特にパニック症を合併している場合(双極性障害をさらに合併している場合を除く)には、抗うつ薬の一つである選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI;パロキセチン、セルトラリンなど)が第一選択となります3)。ただし、抗うつ薬は効果発現まで2~4週間の期間を要しますので、発作時の頓用としては使用できません。また、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬については、即効性があり頓服として使用することもできますが、常用量依存の問題も指摘されており、漫然と連用することはおすすめできません。発作を繰り返す患者に対しては、心療内科や精神科的アプローチが必要です。
- 1) 赤柴恒人:過換気症候群.矢﨑義雄(総編集).内科学(第11版)[机上版].東京.朝倉書店;830,2019
- 2) 村上正人:呼吸器領域における心身医学の発展と展望.心身医学.53巻.1001-1010,2017
- 3) 宮沢直幹:過換気症候群・臨床的視点 症状、他の疾患との識別、対象法など.ファルマシア.47巻.1138―1142,2011