自律神経失調症
自律神経とは、血圧や体温の調節のように意思とは関係なく、自律して心身を健やかに維持するために働く神経系のことをいいます。自律神経には交感神経系と副交感神経系とがあり、両者は通常は相反的に働いています。交感神経は起床中の活動しているときの急激な変化に対応する神経、副交感神経は睡眠中の休養しているときに身体を平穏に保ちエネルギーを貯蔵する神経と考えられています。1)
自律神経失調症は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れた時に生じる病気ですが、医学的な正式名称ではありません。プライマリ・ケアの現場では、身体症状に見合う検査異常がない場合、不定愁訴、自律神経失調症などと呼ばれてきました。医療機関で適切に対応してもらえないことでドクターショッピングにつながることもあります。最近ではこのような患者群に対し心身医学の領域で、機能性身体症候群:FSS(functional somatic syndromes)といった呼称が用いられるようになってきており、従来の自律神経失調症の概念と重なるものと考えられます。2)
自律神経の乱れにより、全身倦怠感、頭重感、動悸、めまい、胃部不快感、腹部不快感、しびれなどの不定の身体的愁訴が起きると考えられますが、症状は人によって様々です。多彩な身体の症状が出てくることや良くなったり悪くなったりを繰り返すことが特徴です。イライラや不安などの精神症状を伴うこともあります。まずはどのようにして身体の不調がおきているのかメカニズムを理解してもらうところから治療介入は始まります。心理社会的ストレスの関与が大きいと考えられる場合には、心身医学的治療の適応となります。向精神薬も使用されますが、自律神経を整える治療は東洋医学が得意とするものであり、この領域では漢方薬が用いられることも多いです。自身の考え方のくせを知りストレスを溜め込まないようにすることや、症状にとらわれすぎないようにするために認知療法や森田療法などの精神療法も行われます。筋電図や脈拍、皮膚温などの刻々と変化する自身の生理的状態を視覚化し、自身で制御するトレーニングを行うバイオフィードバック療法も良い適応です。また、過度な緊張をとり、交感神経・副交感神経のバランスの乱れを改善するためには筋弛緩法、呼吸法などのリラクゼーション法を習得することが大切です。日常生活では、睡眠リズムを整えることや朝に十分な光を浴びること、規則正しい食習慣、十分な運動など生活習慣を整えて体内時計がきちんと働くようにしましょう。女性では更年期の様々な不調は自律神経失調症状であると考えられており、上記のようなアプローチは更年期障害の治療でも共通して重要です。3)
文献
- 1) 佐藤清貴:循環器系症状のメカニズムと心の関係.宮岡等.脳とこころのプライマリケア.東京:シナジー;p26-28、2013
- 2) 西山順滋:プライマリ・ケア領域の心身症再考.心身医学 Vol60.No.2 :p119-124、2020
- 3) 後山尚久:更年期女性の診療における心身医療のありかた.日本女性心身医学会雑誌 Vol15 .No.1:p98-103、2010