女性の病気について

心身症

心身症とは「その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」と定義されており1)、“病態”を示す一連の身体疾患を心身症としているため、実は独立した病名ではありません。

心理社会的ストレスの増大に伴って発症する身体疾患の割合は増えており、時代背景や社会文化的影響を受けやすくなっています。そのため、一つの病名の身体疾患であっても、心身症の場合と心身症でない場合が存在するため、診断と治療には注意が必要となります。

具体的には、以下のものが考えられています2)
①ライフイベントや日常生活におけるストレスの存在
②抑うつや不安状態といった情動上の変化の存在
③性格傾向や行動上の問題(ストレスの認知とコーピングスタイル、生活習慣も含む)の存在
④生育上の人間関係の問題(親子関係など)の存在
⑤疾患自身の心理、行動面への影響の存在
婦人科における代表的な疾患としては、続発性無月経、月経困難症、月経前症候群、更年期障害などが考えられています。
つまり、何らかの病気を心身症として考える時には、ストレスの存在を考えねばなりません。例えば月経困難症(生理痛)を考えたときに、その病気のきっかけとしてなんらかの心理社会的ストレッサー(ストレス)の存在があり、そのストレスによって症状が生じている、あるいは悪くなっている場合に初めて、この月経困難症は心身症として考えられるのです。

<心身症としての代表的疾患>(2)より一部改変

呼吸器系 気管支喘息、過換気症候群、神経性咳嗽、咽頭痙攣、慢性閉塞性肺疾患など
循環器系 本態性高血圧症、本態性低血圧症、起立性低血圧症、狭心症、心筋梗塞、不整脈(一部)、レイノー病など
消化器系 胃・十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、急性胃粘膜病変、慢性胃炎、心因性嘔吐、びまん性食道痙攣、食道アカラシア、呑気症、ガス貯留症候群など
内分泌代謝系 神経性やせ症、神経性過食症、pseudo-Bartter症候群、甲状腺機能亢進症、心因性多飲症、糖尿病、単純性肥満症、反応性低血糖など
神経・筋肉系 筋収縮性頭痛、偏頭痛、その他の慢性疼痛、痙性斜頸、書痙、眼瞼痙攣など
泌尿・生殖器系 夜尿症、過敏性膀胱、心因性尿閉、遊走腎、心因性インポテンツなど
婦人科系 月経困難症、月経前症候群、無月経、月経不順、更年期障害など
その他 関節リウマチ、腰痛症、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、メニエール病、顎関節症、円形脱毛症など

多くの女性は、毎月の女性ホルモンの波を乗りこなしながら仕事や育児、介護など多機能を要求されやすい立場にあり、心理社会的なストレスに曝されやすい現状は続いています。結果として、妊娠出産に関わる不妊症に始まり、産前産後の心身の変化、夫婦生活、更年期など女性の生涯を通じて心身症は起こりうるのです。しかし逆にいうと、心と体がつながっているために起こる心身症を見直すことで、心や体に極端な負荷がかかっていないか、自分自身を見直すきっかけになるとも考えられます。

  • 1)久保千春:心身医学とは.心身医学標準テキスト第3版, 久保千春編,医学書院, 東京,p2-4,2009
  • 2)心身症 診断・治療ガイドライン2006:小牧元,福土審,久保千春 編.東京:協和企画,2006