乳汁分泌
乳頭から液体が分泌される場合、妊娠、産褥期の生理的な変化として分泌されるものと、産褥期以外の生理的乳汁分泌と病的乳汁分泌があります。
乳汁漏出症
乳汁漏出症は、授乳中止後1年以上乳汁分泌が続く状態または妊娠、産褥期以外に乳汁分泌が続く状態のことです。本人が自覚する程度に漏出するものから、搾るとにじむ程度のものまで様々です。乳汁漏出症では、高プロラクチン血症を伴うことが多いといわれていますが、乳汁漏出がみられても血中プロラクチン濃度が正常であることもあります。高プロラクチン血症による乳汁漏出では、両側に乳汁分泌がみられます。分泌物が透明や白色であれば母乳と判断しますが、血性または漿液性の乳汁分泌がみられる場合は、乳がん、乳管内乳頭腫、乳腺症などの乳腺そのものの疾患が疑われます。分泌物の細胞診、触診、超音波検査、マンモグラフィーなどの検査が必要になります。
月経周期の異常(乳汁漏出無月経症候群:無月経、希発月経、黄体期の短縮)
高プロラクチン血症による卵胞発育障害・排卵障害が引き起こされ、これにより無月経となります。高プロラクチン血症は排卵障害を引き起こすので、不妊症の一因となります。
高プロラクチン血症であっても、乳汁漏出はみられず、月経異常のみの場合もあります。
高プロラクチン血症
高プロラクチン血症患者の頻度は、一般人で0.4%、卵巣機能異常の女性では9~17%にみられます。好発年齢は25~34歳といわれています。
高プロラクチン血症の原因は以下に示すものです。
- 生理的要因:妊娠、授乳、ストレス、睡眠、乳房刺激、摂食など
- 薬剤によるもの:抗精神病薬、血圧降下薬、抗潰瘍薬など
- 原発性甲状腺機能低下症
- 視床下部・下垂体茎病変
1)機能性障害:Chiari-Frommel症候群、Arognz-del Castillo症候群
2)器質性障害:
視床下部腫瘍(頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、非機能性腫瘍など)
炎症・肉芽腫(下垂体炎、サルコイドーシス、ランゲルハンス組織球症など)
血管障害(出血、梗塞など)
外傷(下垂体茎離断など) - 下垂体病変:プロラクチノーマ、acromegalyに伴うもの、トルコ鞍空洞症候群、静脈瘤など
- その他:胸壁疾患(手術、帯状疱疹など)、慢性腎不全、肝硬変、副腎皮質不全など
診断
1回の採血で血中プロラクチン値が測定系の正常上限(成人女性の正常上限値は25ng/ml前後)を超えている場合、高プロラクチン血症と診断されます。血中プロラクチン値は生理的影響を受けやすく、また月経周期内でも変動があるため、血液検査は、卵胞期初期で、起床後数時間後の食前に行うことが推奨されています。(2011年米国内分泌学会ガイドライン)高プロラクチン血症と診断された場合は、原因についての鑑別診断を行います。
治療
原因となる疾患を正確に診断し、それに対する治療を行うことが基本となります。
予後
一般に、プロラクチン値が低いほど、また乳汁漏出の程度が軽度なほど、治療による乳汁漏出停止率が高いとされています。しかし、原因疾患の治療を行っても乳汁漏出が持続する場合もあり、経過を観察していくこととなります。
引用文献
- 1) 田村功 月経異常症 乳汁漏出無月経症候群 別冊 日本臨床 内分泌症候群(第3版)—その他の内分泌疾患を含めて—. 日本臨床社, 202-206.2019.
- 2)千石一雄, 宮本俊伸, 水無瀬学, 水無瀬萌. 乳汁漏出症 別冊 日本臨床 内分泌症候群(第3版)—その他の内分泌疾患を含めて—. 日本臨床社,262-266.2019.