女性とめまい
めまいとは、自分あるいは周囲が動いていないのに動いていると感じてしまう感覚の異常であり、一般的には目が回ること・目がくらむことといわれています。めまいは、女性に多く男性の約2倍の頻度で起こること、その要因には、女性ホルモンであるエストロゲンの影響があることがわかってきています。
めまいを伴う病態は大きく分けて、回転性めまいと浮動性めまいに分けられます。回転性めまいは、周囲が動いているように見えたり、自分が回転しているように感じることで気づきます。そして歩行の不安定性や吐き気や嘔吐と伴うことがあります。頭の位置を変化させることで回転性めまいが生じる場合には、めまいを起こす基礎疾患のうち末梢性めまいに属する良性発作性頭位めまい症であることが多いです。この良性発作性頭位めまい症は、難聴や耳鳴りを伴いません。もう一つ、末梢性めまいに属する代表的疾患にメニエール病があります。メニエール病は、寝ていて安静にしていてもめまいが生じるものであり、難聴、耳鳴り、耳閉塞の症状がみられ、内リンパの過剰産生あるいは吸収障害により発症するといわれています。浮動性めまいは、不安定感や気の遠くなる感じが起こり、立ちくらみや失神、足元がふらつく、床がぐらぐら揺れる感じといった症状がみられます。この場合には、低血圧や貧血、低血糖、心循環器系や心因性疾患などの多数の疾患の鑑別が重要となります。
急に強いめまいが起こった場合は、横になり楽な姿勢で安静を保ちます。手足がしびれる、舌がもつれる、物が二重に見える、意識がもうろうとする、激しい頭痛や耳鳴りが続く場合には、速やかに専門医(耳鼻科、神経内科、脳神経外科等)を受診する必要があります。
女性の場合、婦人科受診でめまいを訴える患者では、子宮筋腫や内膜症による月経過多、婦人科腫瘍の不正出血等による貧血によるものが多く、造血剤等による貧血の改善と原疾患の治療を行います。最近では、女性のめまいについて、月経前、月経中、妊娠中、経口避妊薬内服中、女性ホルモン補充療法中といったエストロゲンを主としたホルモン環境との関連が報告されています。特に更年期では、エストロゲンの卵巣からの分泌低下によって血流障害が生じることが、めまいの原因であると考えられています。他の背景因子として日常生活でのストレスや睡眠不足や運動不足といった生活習慣が大きく影響しています。
めまいが起きたときには、月経時期をメモし、または閉経している場合には更年期症状も認められていれば婦人科受診を勧めます。もし、心理社会的要因が影響している場合には、カウンセリングやリラクゼーションといった心理療法を受けることをお勧めします。また、日常生活のストレス因子が自覚できている場合には、職場や家庭といった環境改善が重要であること、生活リズムの安定や休養、睡眠の確保、趣味やスポーツをすることが大切です。
文献
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