女性の病気について

性機能障害(Sexual Dysfunction)

性的行為ないし性反応のすべてまたは一部に対して、原因は何であれ障害があり、苦痛や対人関係が困難になっている場合をさします。いくつかの分類が提案されていますが、いずれも性欲、性的興奮、オルガズムという性的反応の障害と、性行為による(主に性交時の)痛みに関する障害に大別されます。

疾患分類のほか、原因から心因性、身体因性、混合性、不明性にわけられます。さらに性的行為を経験した当初からずっと障害が続いている「生来型」と、ある時期から障害がはじまった「獲得型」、どんな場合にも障害がある「全般型」と、特定の相手や状況の場合におこる「状況型」にわかれます。これまでの分類は男女の性反応が生理的に同じという発想に基づいていますが、男女の相違も大きいことが、最近特に女性の側から注目されてきました。

たとえば男性モデルでは性欲、性的興奮(勃起)、オルガズム(射精)は一直線に進みますが、女性は相手への親密感や良いセックスの経験が性欲にも性的興奮にも作用し、性欲と性反応も互いに影響し合うと言われます。

次に女性の性機能障害ひとつひとつを簡単に紹介します。

  1. 性欲はセックスを求める欲望や衝動で、性反応の発端となります。性欲障害には、性欲低下障害(単に性的興味が低下している状態)と、性嫌悪障害(性的な行為に対する理不尽な拒絶)とがあります。
  2. 性的興奮とその障害
    女性の性反応は、骨盤内の充血によっておこる腟潤滑液などの生理的反応と,心理的な高揚感に分けて考えるようになってきました。前者は婦人科疾患,手術,動脈硬化,加齢などでも障害されます。しかし後者は性欲と密接に関係し,相手との関係性の影響が大きいことがわかっています。
  3. オルガズム障害
    オルガズムは性的興奮がピークに達した後におこる、骨盤底筋群のリズミカルな運動が基本で、これを心地よく感じるのが健康な性反応です。骨盤底の支配神経や筋肉の劣化や、葛藤や気になることがあると障害されます。
  4. ワギニスムス(腟けいれん)
    無意識の場合も含めて、性交や性交時の痛みへの恐怖があると、ペニスの挿入に際して腟が条件反射的に収縮をおこすなどして、性交ができない状態となります。かつては性的疼痛障害に含められていましたが、最近は痛みそのものとは分けて考えられるようになってきました。
  5. 性交疼痛障害
    くりかえしおこる性交痛のことですが、男性にはあまりなく、もっぱら女性に見られる障害です。心因性では性的興奮がおこらないと腟潤滑液が出ず、無理に挿入することで痛みを生じます。他の性機能障害にくらべて、外陰炎、腟炎、腟粘膜の萎縮、子宮内膜症など身体疾患が原因でおこるものが少なくありません。
    性機能障害の治療は、まずカウンセリングにより、障害の内容を把握するところから始まります。パートナーと一緒に話を聞くことがより効果的です。診断のためには、身体的な検査も必要です。身体的な原因が主であればその治療を行います。心因性、混合性では心理療法を中心とした性治療を行います。障害に合わせた行動療法が主な内容ですが、治療者には、産婦人科、泌尿器科、精神科の医師や看護師、臨床心理士などがおり、それぞれ専門性がやや異なります。したがってしばしば身体治療の担当者も含めたチーム治療が必要となります。