高脂血症(脂質異常症)
女性では高脂血症(脂質異常症)を主な原因とする動脈硬化や心筋梗塞などの疾患が閉経期前後に急激に増加します。実際に、日本における65歳以上の女性の死因は、循環器系疾患が過半数を占め第一位で、高齢になるにしたがってその比率は増しています。ここでは、閉経後の高脂血症(脂質異常症)について述べます。
生活習慣病としての脂質異常症
脂質は人間のからだにとって大切なものですが、食事としての摂取量と運動や肝臓での代謝量とのバランスがうまくとれなくなると、脂質異常症という形で現れてきます。炭水化物などはエネルギー源として重要な栄養素ですが、体が必要とする量より増加してくると、血液の中では過剰な中性脂肪として増えてきます。また、一般に総コレステロールと呼ばれている脂質は、この中性脂肪の一部と悪玉コレステロールと呼ばれている脂質LDLコレステロール(LDLC)と善玉コレステロールと呼ばれている脂質HDLコレステロール(HDLC)の総和で、血清総コレステロール(TC)のことを指します。HDLCは動脈硬化に対して改善する方向へ働きますが、LDLCは動脈硬化を促進する方向へ作用するため「悪玉」の名称がついているわけです。
エストロゲン欠乏と脂質異常症
卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンによって女性の脂質代謝は影響を受けています。閉経に伴うエストロゲンの欠乏によってこの脂質代謝が変動することが知られています。厚生労働省の循環器疾患基礎調査によると、TCは40歳までは男性より女性がやや低値ですが、閉経後は逆転して女性のほうが男性より高値となり、60歳代以降は男性と比較しても高値を維持しています。また、心筋梗塞のような虚血性心疾患の合併率はTCの上昇に伴い直線的に増加しています。一方、一般的にHDLコレステロール(HDLC)は動脈硬化に対して抑制的な作用を有していますが、この値は閉経後低下を示します。これらの事実から閉経後の女性では動脈硬化が起こりやすい状態になっていると考えられます。
欧米の報告でも、TCが1%減少すると虚血性心疾患は2%減少し、LDLコレステロール(LDLC)が11%減少すれば虚血性心疾患は19%減少するとされ、HDLCが1mg/dl増加すれば3~5%の虚血性心疾患を減少させるとされています。
脂質代謝に及ぼすエストロゲン補充療法(HRT)の影響
エストロゲンはTCおよびLDLCを低下させ、HDLCを上昇させることにより脂質代謝に対して良好な効果を示します。黄体ホルモンや男性ホルモンはエストロゲンとは逆の作用、すなわちLDLCを上昇させHDLCを低下させることから脂質代謝改善に対して負の効果を示すと考えられています。このように減少したエストロゲンを閉経後の女性に補充することをホルモン補充療法(HRT)と呼びます。 HRTは脂質異常症の治療が主な目的ではなく、更年期障害や骨粗鬆症の予防、うつ状態の改善、皮膚や粘膜の若返り効果などに多く行われていますが、脂質の改善にも効果があります。