卵巣の疾患(良性腫瘍)
1. 卵巣腫瘍とは
卵巣は親指の先ぐらいの大きさで、左右に各1個ずつあります。この卵巣に腫瘍ができたものを卵巣腫瘍といい、多くは片側の卵巣に発生しますが両側に発生することもあります。卵巣腫瘍には非常に多くの種類があり、大きく分けると良性腫瘍、悪性腫瘍、境界悪性腫瘍に分類されますが、約90%が良性です。この項では良性腫瘍についてご説明いたします。
2. 分類
卵巣良性腫瘍は病理学的に以下のように分類されています。
表層上皮性・間質性腫瘍 | 漿液性嚢胞腺腫 粘液性嚢胞腺腫 類内膜腺腫 明細胞腺腫 腺線維腫(上記の各型) 表在性乳頭腫 ブレンナー腫瘍 |
性索間質性腫瘍 | 莢膜細胞腫 線維腫 硬化性間質性腫瘍 セルトリ・間質細胞腫瘍(高分化型) ライディク細胞腫[門細胞腫] 輪状細管を伴う性索腫瘍 |
胚細胞腫瘍 | 成熟嚢胞性奇形腫[皮様嚢胞腫] 成熟充実性奇形腫 卵巣甲状腺腫 |
その他 | 非特異的軟部腫瘍 腺腫様腫瘍 |
この中でよく見られるのは以下の3つです。
(1)漿液性嚢胞腺腫
腫瘍の中に淡黄色透明の粘稠度の低い液体がたまり、水風船のように単房性で薄く平滑な壁に包まれています。一時的に液体がたまる非腫瘍性の病変と鑑別が難しいこともありますが、自然に縮小することはありません。
(2)粘液性嚢胞腺腫
腫瘍の中に粘稠度の高いネバネバとした液体がたまります。多房性であることが多く、内部が平滑な壁で仕切られています。
(3)成熟嚢胞性奇形腫 [皮様嚢胞腫]
比較的若年女性に多く、内部に皮膚組織、毛髮、脂肪、軟骨、骨などの成分を含みます。若年者で癌化することはまずありませんが、高齢者に発生すると稀に癌化することがあります。
3. 症状
一定の大きさまでは無症状のことが多く、しばしば検診または妊娠時に偶然発見されます。腫瘍が増大すると腹部膨満感、圧迫感が出現しますが、それでも太っただけだと思い込まれる方も多いようです。また腫瘍の根元がねじれると(茎捻転)、突然激しい下腹部痛が出現します。その他月経異常、不正性器出血を伴うこともあります。
4. 診断
診断にはまず内診、超音波検査(経腟または経腹)、血液検査(腫瘍マーカー)を行ないます。さらにMRIやCTを併用して腫瘍内部の性状や周囲との関係などを観察し、良性か悪性かの診断を行ないます。最終的には摘出したものを顕微鏡で見ることにより診断が決定します。
5. 治療
卵巣腫瘍の良性・悪性の区別は必ずしも容易ではなく、また、基本的に自然消失は期待できないこともあり、手術療法が基本です。ただし、大きさが6cm以下で内部に異常を認めない場合は3~6ヶ月毎に経過観察を行なうことも可能です。
手術方法には、
(1)卵巣嚢腫摘出術:卵巣腫瘍の腫瘍部分だけを取り除き、正常部分を残す
(2)卵巣摘出術 :卵巣腫瘍を卵巣とともに摘出する
(3)付属器摘出術 :卵巣腫瘍を卵巣・卵管とともに摘出する
の3つがあります。また、摘出する手段によって開腹手術と腹腔鏡下手術があります。どの術式を選択するかは、患者さんの年齢、腫瘍の大きさ・性質、周囲との癒着などから総合的に決定します。